混沌の中から#9605
立て掛けられたパネルのそれぞれは、脱色染みの表情を持つ抽象画のように見える。パネルに近づくと、転写された写真画像が染みにまぎれて溶け込んでいる。その画像は、叫ぶ人、歓喜する人、銃を構える人…など、報道写真から抽出した人間の姿であり、丸山は、それらの出来事のなかに、人間のありようを見ようと試みている。
パネルから遠ざかると、画像は染みのひとつになって茫漠とした青色に飲み込まれる。互いに支え立つパネルの集合体は隙間に深い陰影をはらみ、大気圏の雲のような染みの動きが周囲にも背後にも伝播し、全体に波及する。この様相は、あらゆるものが国境を越えて流れる地球のようであり、その危ういバランスは、小さなきっかけで一挙に崩壊する危険もはらんでいる。すでに廃虚にも見える趣は、新たな何かが生まれる前の混沌なのかもしれない。