森羅万象というあなた#1909

日本人は、その国土が位置する条件のために、地震と津波、洪水や土石流などの自然災害に、繰り返し見舞われてきた。たとえ対策を講じても、自然はしばしばそれを圧倒した。この地に生きるものの宿命なのか、日本人の遺伝子には、自然現象を受け入れ、それに適応して生きようとする気質が組み込まれているのかもしれない。
私がアートプロジェクトを開催してきた福島県会津地方は、人里を包むようにそびえる山々と複数の川による起伏に富む大地である。そこは、その雄大な光景と、歴史を重ねた地の趣によって、人がこの自然環境や伝承のカミサマを敬い、そこに生きる動植物と共存していく精神が、自然に育まれたところだ。
このような環境や自然災害は、人間が地球の表層に棲息する生き物のひとつに過ぎないことを、私たちに気づかせる。生物としてのささやかな生涯だからこそ、いまここに他者と縁を結んで存在していることが貴重なのだと思える。

作品は、「人間」の世界と「人間以外の森羅万象という他者」の世界を向き合わせている。この「他者」は、動植物のみならず、山に分け入ると感じる生きものや地霊の気配、各地に残る自然神や、天体も含む。これらに感覚を開いて共にありたい。
フィンランドにおける「他者」はどのようなものだろう?それを探り、互いの精神世界や、人間は地球にどのように存在しているのかを考えたい。

 

隣接する3つの展示スペースに配置された9名の作品には、人、けもの、魚、蝶、日本の祭りや鹿踊り、東北を襲った災害という自然現象、人の心象などが表されている。それらの種や魂は表現の中で軽やかに境界を超え、表現同士も互いに共鳴し、映像作品のかすかな音とともに全体が共振していく。
私のインスタレーションは、中央のスペースの真ん中に位置する。人間と人間以外のあらゆる存在が向き合うその場に、3会場すべての表現を引き寄せることで、作品も展覧会の総体も共に豊かになっていくだろう。