羽化 - 世界が変わるかもしれない#1801
3.11後の数年間、丸山はアゲハの変態プロセスを観察してみた。気の遠くなる未来まで及ぶ原発事故の影響に動揺する人間を尻目に、アゲハは一連の行程を粛々と辿った。彼らが見せた一生のサイクルが宇宙や地球の壮大なサイクルの中に含まれつつ、人間もアゲハも生きていることを指し示した小さな姿は、聖なる存在のようだった。
そのプロセスの中でサナギの期間は、青虫から蝶へと生まれ変わる最もミラクルな行程だ。ツタンカーメン王の棺に似た姿で、約10日間動かない。死んだように、瞑想するように。その内部では青虫の体をドロドロに解体し、細胞の死と生成とを同時に行なっているらしい。丸山には、その「再生に向かう密やかな準備」の状態に、3.11以前の意識や社会を変え、困難から復活しようと努力する福島の人々が重なって見えた。
この作品で表現したのは、そのサナギからの羽化の瞬間である。飛び立つ蝶は、自ら立ち直り、意志を持って生きようとしている。 蝶からさらに、会津地方の伝承である、非科学的で不思議な「会津物語」の生き物に変容して宙に散り、その物語のような想像力で世界を変えて行こうとしている。世界を震撼させたこの出来事にたまたま居合わせた運命につぶされず、奮起する人々に、エールを送る。