森羅万象というあなた#1706

そびえる飯豊連峰や、只見川・阿賀川の谷がつくる、起伏に富む大地。丸山は、アートプロジェクトを開催して来た福島県の会津地方で、この土地が持つ豊かさを実感する。そこは、人がこの環境を敬い共存していく感覚や精神を、自然に抱けるところだと思う。このような環境や大きな自然災害を経験すると、私たち人間が、その環境のなかに棲息する生き物のひとつであることを自覚する。生物としてのささやかな生涯だからこそ、いまここに他者と縁を結んで存在していることが貴重なのだと思える。

作品は、「人間」と「人間以外の存在」(ここでは「森羅万象」と言う)を表す。「人間の世界」は、人間が地球の表層に築いた文明のかたちだ。対する「森羅万象の世界」は、この宇宙に存在する一切のものや現象である。この世界は、生き物だけでなく、山に分け入って感じる濃厚な気配も含む。この気配は、大地が育んで来た悠久の時間の積層や地霊のせいだろうか?丸山は、そのような私たちを取り巻くあらゆる存在について再認識してみようと試みる。たとえ科学的に解明できないものであっても。

東京都美術館の会場は、深い地下空間ゆえに、まるで土地が内包するものに近づけているかのようだ。なぜなら、荒々しい地質を想像させる壁による硬質なスペースには、屋外の森の気配や列車の通過音が、遠い宇宙からのコンタクトのように反響し、私たち人間をひとつの生命体として意識させているから。