サナギのとき#1311

春のある日、山椒の葉にアゲハの卵を見つけ、観察を始めたその生態は、驚きと不思議に満ちていた。変化に富む行程のなかでとりわけ不思議なのが、青虫から蝶になる間の蛹の時期だ。這い回る幼虫期とは異なり、死んだように無反応になる、ファラオの棺のような形の蛹。その内部では、全く異なる体に生まれ変わるために、青虫の体をどろどろに解体する大改造、つまり細胞の死と生成とが同時進行しているらしいのだ。臨死のような蛹のときを越えて、殻を破り、羽をつけて現れたアゲハが澄んだ明けの空に消えたとき、その姿は、変わろうともがいている私達人間に、アゲハが身をもって示した“生まれ変わる手本”のように思える。