アゲハが見た世界 1

サナギのとき ー変わろうとする私たち人間を重ねて

春のある日、山椒の葉にアゲハの卵を見つけ、観察を始めたその生態は、驚きと不思議に満ちていた。変化に富む行程のなかでとりわけ不思議なのが、蝶になる直前の蛹の時期だ。それまでとは打って変わって、死んだように無反応になる、ファラオの棺のような形のサナギ。その内部では、全く目的が異なる体に生まれ変わるための、細胞の死と生成の同時進行、つまり、幼虫の体をどろどろに解体する大改造が行われているらしいのだ。臨死のような蛹のときを越えて生まれ変わる小さな姿に、変わろうともがいている私たちの姿を重ねてみる。

誰に教わることもなく、一連の手順を一途に実行して見せた8匹のアゲハが示したのは、”生きる”姿だった。そして9匹目の存在。1匹のみ落下によって命を落としたことは、野生のたくましさの影としてある命の脆さも示し、その1匹によってこの世の真実を見た気がした。

長いサナギのときを経て、殻を破り、羽をつけて現れたアゲハが意を決したように飛び立ち、澄んだ空に消えたとき、その姿は、アゲハが身をもって人間に示した“生まれ変わる手本”のように思える。

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