混沌の中から#9205

草の戸にCosmosを招く

(前文略)
丸山芳子が立てかけるパネル・ユニットには、ボーダーレスな情報環境にグローバルな空間意識へと漂出した感性が、ディスプレイのハードとは別な、身体性を含む草の戸の記憶の回路に通じてフィードバックされた趣がある。宇宙空間から眺められた水惑星の表情に染まる空域、その面に染みとなって漂う事象のフラグメント‥‥障子や襖の張り替えや畳の表がえを憶わせる簡素な仮構は、その重なりの隙間に微妙な陰影のディメンションを静かに織り成している。開閉のシステムとは異なるパラダイムの縁に立てかけられた戸の前に佇むとき、
 草の戸も住みかはる代ぞ雛の家
-といった先人の一句が、スペースシャトルの窓辺にての詠吟となってコスミックな波動を帯びて響くのを聴く。

鷹見 明彦(美術評論家)
1992 個展作品「混沌の中から」についての文より抜粋