境界線のはざまで#0101

 本質を露にしたヒトはどんなふうに同じ種と関わり、その心理はどのようなものだろうか。撮影地もまちまちなたくさんの肖像を円環状に並べていくと、それらは偶然の隣り合わせによる新しい関係を持つことになる。この“偶然”は、私たちが生きていくこと、つまりこの時代にこの地に生まれ、偶然居合わせた周囲の人々と共存していくことそのものに思える。
 人の姿は、撮影から版画プリントまでの工程を経るごとに細部が脱落して匿名に、さらにはヒトという生命体としての存在に近づいてゆく。肖像の四方を縁取る微かな赤い線は、その人の他者に対する心理を、境界線として象徴する。それは、個と個の関係や個と集団の関係のなかで、有機的に複雑に、たえず変わり続ける。民族間の軋轢の発芽や和解も、きっとこのようなものではないだろうか。